福岡高等裁判所 昭和50年(う)154号 判決 1975年8月04日
少年 G・T(昭三一・一〇・三〇生)
主文
原判決を破棄する。
本件を長崎家庭裁判所に移送する。
理由
本件控訴の趣意は、弁護人栗原賢太郎が差し出した控訴趣意書に記載されたとおりであるから、これを引用し、これに対し次のとおり判断する。
所論は、被告人に対する原判決の量刑が不当に重いというので、記録を精査し、かつ当審の事実取調の結果をも検討し、これらに現われた本件犯行の罪質、態様、過失の程度および被害結果、被告人の年令、性格、経歴、家庭の事情、犯罪後の情況、本件犯行の社会的影響など量刑の資料となるべき諸般の情状を総合考察すると、被告人は、原判示のように、自動二輪車を運転し、大村市内の国道を進行中、公安委員会が指定した最高速度五〇キロメートル毎時を守り、かつ、前方左右を注視して進行すべき業務上の注意義務があるのにこれを怠り、先行する友人運転の自動二輪車に追いつくのに気を奪われ、前方不注視のまま漫然時速一〇〇キロメートルの高速度で進行した過失により、折柄自車進路上を右側から左側へ横断歩行中の被害者○原○雄(当時五〇年)の発見が遅れ、至近距離に接近して初めて同人に気付き、急制動する間もなく同人に自車を激突させて跳ねとばし、同人を全身打撲による心停止により即死させたというもので、被告人の過失は重く、しかも、結果が重大であつて、被告人を禁錮一〇月以上一年二月以下に処した原判決の量刑も首肯しうるものがある。しかし、翻つて考えるに、被告人は、義務教育終了後、工員として真面目に勤務しながら、定時制高校に在学し、限鏡不使用の道交法違反で二回警察官より注意されたことがあるのみで、他に特段の非行歴の認められなかつたもので、しかも、本件犯行時においては、僅か一七歳四ヵ月余りの年少者であつたこと、被告人の父親は、原審当時において、被害者の遺族に対し、自賠責保険による賠償額の支払のほかに金二〇〇万円を支払つて示談解決ずみであるうえ、さらに、原判決後、被害者の遺族に対し、金一〇〇万円を供養料として追加支払いするなどしており、被告人の保護、指導につき協力的態度が十分期待できること、被告人は、自己の非を深く反省、悔悟し、一方、被害者の遺族も、被告人を宥恕し、寛大な処分を望んでいることが認められる。そして、被告人は、長崎少年鑑別所の鑑別を受け、検察官送致相当の判定を受けているものであるが、右鑑別は、同鑑別所の法務技官が家庭裁判所に赴き、同所において二〇分間被告人に面接したのみでなされた簡易な検査に基くものであり、右鑑別結果を記載した道路交通事件鑑別結果通知書中にも、被告人につき、なお、精密鑑別を要する旨の記載がなされているのであつて、右鑑別結果をもつて、直ちに、被告人が保護処分による矯正に適しないものとは断じ難く、寧ろ、被告人の保護処分による処遇の適否を判断するにつき必要な性格その他の資質の鑑別が十分に尽されているとは認め難いのである。
してみれば、被告人は、現在一八歳九ヵ月に達したばかりであつて本件を家庭裁判所に移送し、さらに性格その他の資質の鑑別ならびに調査を尽さしめ、被告人に対し適切なる保護処分をなさしめるのが相当であると考えられる。この点を斟酌することなく被告人を実刑に処した原判決の量刑は重きに過ぎると考えられるので、論旨は理由がある。
よつて、刑事訴訟法三九七条、三八一条により、原判決を破棄したうえ、少年法五五条の規定に従い、本件を長崎家庭裁判所に移送することとし、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 藤原高志 裁判官 真庭春雄 金沢英一)
参考三 少年調査票<省略>